サブカル備忘録

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勇者ヨシヒコの面白さってなんだ?

低予算のものこそ工夫がされていて、面白い。低予算で面白いものを作る、福田雄一監督作品の魅力を今回は考える。

 

 

勇者ヨシヒコに学ぶ低予算ヒットの方程式

福田監督といえばまず挙がるのが、勇者ヨシヒコシリーズだ。本作はドラクエのような世界観をダンボールの敵など小道具で撮影した完全低予算作品である。下記サイトに10月7日まで過去作品は無料配信しているので、見たことない方は見てほしい。最高ににくだらなくて面白い。(2017年2月現在は配信されていません)

では、普通の山の中でコスプレした人たちが演じている映像がなぜあんなにも面白いのか?それは、くだらないことを本気でやっているからである。ここで本作では低予算ということは感じさせないくらいの熱演を俳優が繰り広げている。低予算であると感じるのはそのセットや雰囲気が安く見えるからである。

つまり、福田監督作品の方程式とは、演技力のある役者×チープなセットである。このチープなセットこそが逆に余計なものを見せずに役者に集中させる力を持たせている。

勇者ヨシヒコと魔王の城 DVD-BOX(5枚組)

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ニーチェ先生』から見る演技と素の境目

また、福田監督が手がけた作品として、『ニーチェ先生』という作品がある。これは先の勇者ヨシヒコシリーズと異なり、原作の漫画を実写化した作品である。福田監督は多くの原作作品の実写化も手がけており、例えば、変態仮面アオイホノオ、また、来年は銀魂の公開も控えている。

話を戻すと、この『ニーチェ先生』はコンビニを舞台とした店員同士のコメディーである。そのため、コンビニの周りで起こることしか話には登場しない。つまり、実写化する際にも、コンビニのセットとその周りだけでことが済む。だからこそ、セットは低予算ですむが、舞台のようにシーン縛りがある難しさを持つ。

ここで役に立つのが、先の福田監督作品の方程式で登場した、演技力のある役者である。福田監督の演出としてよくあるのは、誰かがふざけてそれが余りにも本気すぎて、出演者が素で笑ってしまうというものだ。

例えば、本作では、コンビニの店長がノリノリで通路を歩き、それを冷ややかな目で他の店員が見るというだけのシーンでも、店長が本気で笑わせにかかるからみんな思わず役を忘れて笑ってしまう。通常ならNGになるシーンもここでは採用される。

この意図は、おそらくバラエティー番組でおなじみの笑い声のSEと同じであると考えられる。役者と演じているキャラクターがあいまいになることで、これはドラマであって演じているのだから笑っていいんだという承認のようなものを与える効果がある。つまり、本気でやる出演者を笑わせるくらい面白くなければ視聴者なんか笑わせられないし、その俳優が素で笑うことであぁ笑っていいのか、笑いどころなのかという承認を得たような気持ちになる効果を生み出している。

ニーチェ先生 DVD-BOX

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新作 勇者ヨシヒコから見る予算の使いみち

低予算監督と言われながらも知名度を上げ、そこそこ知名度が出てきた福田監督が編み出した手法というのは、低予算であることを魅せる手法だ。ただ、さまざまな作品を通して知名度を挙げた監督には予算が多くついてくることが考えられる。勇者ヨシヒコシリーズなんで三作目なのだからそれなりにあるだろう。だが、低予算監督としてのイメージがある福田監督はその予算をどこに使うのか今回の10月から放送開始する勇者ヨシヒコについて考えてみよう。

それはずばり、プロモーションである。本作のプロモーションにおいて、馬車を使った広告やヤフーの検索フォームなど多くの広告を打っている。

その中でも新宿アルタ前に実際の馬車を走らせるという広告はこのSNS時代において、フォトジェニックな対象を作り拡散させることに成功している。実際、勇者ヨシヒコを知らない人にとっても街中に馬車がいるというのは異様な光景である。だから写真に収めてTwitterに投稿する。それを見た勇者ヨシヒコ既存のファンは存在に気がつく。それによりさらに拡散される。その繰り返しにより、ネットニュースやまとめサイトに転載され、さらに宣伝される。

おそらくこの馬車を手配するのはかなりの額がかかっているだろうが、単にアーティストの音楽が大音量で流れるトラックを走らせるより何倍もの効果が予想される。低予算で面白いという手法は、費用対効果を格段に引き上げる広告制作でも工夫されている。

しかし、番組が始まる前の番宣の広告で多くの額を使ったことが予想されるため、ドラマ制作費自体は低予算で作ることを強制される。だからこそ、上手くシリーズものであっても以前のように追い詰められた状態で、クオリティーを保って作れるのである。ただ、まだ本放送が始まる前の段階での推測であるため、本当にそうなるかはわからない。けれども、こうなってほしいという期待を込めてこの記事を終わりにする。


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