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ハチクロから3月のライオンへの変化とは?

 

 

恋愛マンガだけじゃないハチクロ

 ハチミツとクローバーは、美大を舞台とした学生達の生活を中心としたマンガである。主人公の竹本祐太は、ある日大学で花本はぐみに一目惚れをする。また、竹本くんと同じアパートに住む留年している先輩森田忍も花本はぐみに恋をする。というストーリーだ。こうあらすじを書くと、ありふれた月9ドラマのような感じがする。けれども、恋愛ドラマだから面白いというのは、恋愛ドラマならなんでも面白いというようなものだ。

ハチミツとクローバー (1) (クイーンズコミックス―ヤングユー)

羽海野チカのマンガではナレーター的に主人公に自分の心情を語らせている。独白というか、分かりやすく言えばひとりごとだ。それをその時の感情としてではなく、俯瞰的に書かれている。

人が恋に落ちる瞬間を 初めて見てしまった

 ハチミツとクローバー 真山のセリフより

このセリフを話す真山は、今よりも冷静で少し距離をおいて物事を見ている。このセリフの末尾が過去形であることから読み取れる。この視点は、読者の視点でもあり、一歩弾いた目線で物語を見ているセリフだ。

恋は盲目という言葉が示すように、恋愛は個人的なものである。だが、このハチクロではそれを「ボクとキミの物語」で終わらせるのではなく、「ボクとキミの物語」を未来のボクが見る形式で進めることでより多層的な物語構造にしている。

 

ご近所マンガとしての3月のライオン

三月のライオンはノスタルジーあふれる月島がを舞台とした、棋士の少年、桐山零とその周りで起きる人間模様について描いたマンガだ。そこに3姉妹が登場する。この3姉妹の住む家に零は出入りすることで、桐山零自身が成長する。

3月のライオン 11 (ジェッツコミックス)

舞台である月島は下町と呼ばれる濃密な人間関係が今も残る地域である。隣人の助け合いを描いた他の作品としてはAlways三丁目の夕日があるが、このマンガ内ではそのような助け合いは出てこない。つまり、ただ昭和ノスタルジーとして隣人の助け合いを描くのではなく、仲の良い人は助けるという極めて現代的な隣人愛を示している。

具体的に言えば、3月のライオンの前半は、零くんは3姉妹に助けられることによって、擬似家族になっていく物語なのだ。ここで言う擬似家族とは、実際に血縁関係がないが、恋人ではなく家族のような集合体のことである。朝ドラなどで見られる隣人愛などもそれに当たる。参考までに他の擬似家族作品を上げると、マンガならうさぎドロップよつばと!、ドラマなら奇跡の人や多くの朝ドラなどもこれに該当する。

家族よりも家族的!?「疑似家族」を描いた作品 - NAVER まとめ

 

ハチクロから3月のライオン、そして

ハチクロでは、竹本くんとはぐちゃんとの恋愛を中心に描かれていた。3月のライオンでは、三姉妹と零くんの擬似家族的な側面が強調されている。

つまり、羽海野チカは、ハチクロの「ボクとキミの閉じられた恋愛観」から、3月のライオンの集合として愛し愛されるような「擬似家族的なつながり」を描くようになったのだ。

 

よく、羽海野チカのマンガは説教臭いと言われることがある。この漫画を批判するということは羽海野チカの人格を否定することにつながりかねない。それくらい自我が出ている。だとすれば、今まで書いてきた恋愛から擬似家族への変化は本人の心境の変化であるのでは?と思う。

 

現在、3月のライオンでは、零くんと三姉妹の次女との恋愛模様が描かれている。この擬似家族内部での恋愛というのは、家族内での恋愛が近親相姦として排除されていたようになかなか描かれない。この辺をいかにうまく描くかが、今後の話の展開に大きく関係してくる。

 

3月のライオン 12 (ヤングアニマルコミックス)
 

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