トラウマを乗り越えるには?
トラウマの語源はギリシア語で「傷」を意味する言葉だ。だから、トラウマは時間が経てば良くなるし回復する。そんな口説き文句は容易に想像がつく。
ただ、本当にそうだろうか?
乗り越えられないほど辛いこともあるのではないだろうか?
映画マンチェスター・バイ・ザ・シーを通して、トラウマを考える。
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』あらすじ
2016年公開のアメリカ映画で、主人公のリーは短気な性格で血の気が多く、ボストンの住宅街で便利屋を営んでいた。ある冬の日、兄のジョーが心臓発作で亡くなったとの電話を受ける。知らせを受けたリーは故郷の町「マンチェスター・バイ・ザ・シー」に帰る。そこで、ジョーの遺言によりジョーの息子の後見人に選ばれ、共同生活が始まる。ただ、あるトラウマが原因でジョーは町を出ていたことが明らかになる。
トラウマは乗り越えなくてもよい?
この映画の注目すべきところは、「兄の息子と暮らすことでトラウマを回復する」のではなく、「トラウマを乗り越えられない」という結末にある。
マンチェスター・バイ・ザ・シーは兄からの遺言により若者と住むことで解決する話ではない。
ホッケーチームに所属し、バンドもやり、彼女も2人いるジョーの息子と便利屋で孤独な中年のリーは、明らかに人生の勝者と敗者の関係で描かれている。度重なる昔の回想シーンは、リーがかつて幸せに町で暮らしていたことを思い出される。けれども幸せな分だけ、現実の辛さがのしかかってくる。
だからこそ、リーはトラウマが根強く残るこの街で暮らすことはできない。けれども兄の息子の町に残りたいという希望も叶えるべく、第三の道を選択する。
マンチェスター・バイ・ザ・シーでは、疑似家族愛でトラウマを乗り越えるのではなく、トラウマを背負った上で、生きていくことを選ぶのだ。
トラウマから逃げるのではなく共存する。これがこの映画のキーワードであり、学ぶ部分だ。